くらいそら
暗い空

冒頭文

一 太い、黒い烟突(えんとつ)が二本空に、突立(つきたっ)ていた。その烟突は太くて赤錆が出ているばかりでなく、大分破れて孔(あな)が処々(ところどころ)にあいている。ちょうど烟突は船の風取(かざとり)のようだ——私が曾(かつ)て日清戦争や日露戦争に行って来た軍艦の砲弾に当って破れた風取や捕獲した敵艦の風取だというものを見たことがあるが、それとちょうど同じように破れている、その隙間から青空が洩れて

文字遣い

新字新仮名

初出

「早稲田文學」1908(明治41)年10月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日