くし

冒頭文

町から少し離(はなれ)て家根(やね)が処々(ところどころ)に見える村だ。空は暗く曇っていた。お島(しま)という病婦が織っている機(はた)の音が聞える。その家の前に鮮かな紫陽花(あじさい)が咲いていて、小さな低い窓が見える。途(みち)の上に、二人の女房(かみさん)が立って話をしている。 「この頃は悪い風邪が流行(はやり)ますそうですよ。」「そうだそうですよ、骨の節々が痛むんですって。」陰気な、力な

文字遣い

新字新仮名

初出

「文章世界」1908(明治41)年7月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日