きたのふゆ
北の冬

冒頭文

私が六ツか七ツの頃であった。 外の雪は止んだと見えて、四境(あたり)が静かであった——炬燵(こたつ)に当っていて、母からいろんな怖しい話を聞いた。その中にはこんな話もあったのである。 毎晩のように隣の大貫(おおぬき)村に日が暮ると赤提燈(あかちょうちん)が三つ歩いて来る。赤い提燈は世間に幾らもある。けれども何(ど)の提燈でも火を点すと後光が射すのが普通だ。然るにその提燈に限って後光が射さな

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1908(明治41)年10月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日