きいろいばん |
| 黄色い晩 |
冒頭文
垣根の楓(かえで)が芽を萌(ふ)く頃だ。彼方(あちら)の往来で——杉林の下の薄暗い中で子供等(ら)が隠れ事をしている。きゃっきゃっという声が重い頭に響く。北から西にかけて空は一面に黄色く——真黒な雲がその上に掩(おお)い被(かぶ)さって、黄色な空をだんだんに押しつけて、下に沈ませているようだ。刻々に黄色な空が減じて終(しまい)には一直線となって、はっきりと地平線から此方(こちら)を覗き込んでいる。
文字遣い
新字新仮名
初出
「早稲田文學」1909(明治42)年4月号
底本
- 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
- ちくま文庫、筑摩書房
- 2008(平成20)年8月10日