かしまをさがしたとき |
| 貸間を探がしたとき |
冒頭文
一 春の長閑(のどか)な日で、垣根の内には梅が咲いていた。私は、その日も学校から帰ると貸間を探(さ)がしに出かけた。 その日は、小石川の台町のあたりを探がして歩るいた。坂を登って、細い路次(ろじ)にはいって行った。赤い煉瓦塀(れんがべい)についたり、壊れかけた竹垣に添ったりして、右を見、左を見たりして行くと、ふと左側のすぐ道ばたの二階家に、「貸間あり」の紙札が下っていた。 私は、先(ま)
文字遣い
新字新仮名
初出
「中央公論」1923(大正12)年5月号
底本
- 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
- ちくま文庫、筑摩書房
- 2008(平成20)年8月10日