えちごのふゆ
越後の冬

冒頭文

小舎(こや)は山の上にあった。幾年か雨風に打たれたので、壁板(したみ)には穴が明き、窓は壊れて、赤い壁の地膚が露(あら)われて、家根(やね)は灰色に板が朽ちて処々(ところどころ)に莚(むしろ)を掩(かぶ)せて、その上に石が載せられてあった。この山の上は風が強い。雪解(ゆきげ)の頃になれば南の風が当るし、冬は沖から吹く風が時々小舎を持って行くように揺(ゆす)るのであった。だから家の周囲(まわり)には

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1910(明治43)年1月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日