あくま
悪魔

冒頭文

一 道の上が白く乾いて、風が音を立てずに木を揺(ゆす)っていた。家々の前に立っている人は、何か怖しい気持に襲われているように眼をきょときょとしながら、耳を立てて、爪先で音を立てぬように、互(たがい)に寄り添って、耳から耳へと語り合っていた。 頃は四月であった。暗い曇った日の午後である。杉の木の闇には、羽の白い虫が上下に飛んでいる、ちょうど機(はた)を織っているようだ。沈黙の中に、何物かを待ち

文字遣い

新字新仮名

初出

「新文藝」1910(明治43)年5月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日