ろうば
老婆

冒頭文

老婆は眠っているようだ。茫然(ぼんやり)とした顔付(かおつき)をして人が好(よさ)そうに見(みえ)る。一日中古ぼけた長火鉢の傍に坐って身動きもしない。古い煤(すす)けた家(うち)で夜になると鼠が天井張(てんじょうばり)を駆け廻る音が騒々しい。障子の目は暗く紙は赤ちゃけているが、道具というものはこの長火鉢の外に何もなかった。私は終日外に出て家にいることが稀だから、何様(どんな)ものを食べているか食事

文字遣い

新字新仮名

初出

「新天地」1908(明治41)年11月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日