ゆめのはなし
ゆめの話

冒頭文

むかし加賀百万石の城下に、長町という武士町がありました。樹が屋敷をつつんで昼でもうす暗い寂しい町です。そこに浅井多門という武士がありました。ある晩のこと、友だちのところで遊んで遅く川岸づたいに帰って来ましたが、いまとは異(ちが)ってそのころは武士町の高窓(たかまど)に灯がうっすりと漏れているだけで、道路の上はただうるしのような闇になっているのです。多門は川の瀬の音に迫る晩秋の淋しさを感じていました

文字遣い

新字新仮名

初出

「令女界」1924(大正13)年12月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年9月10日