あるかんぜんはんざいにんのしゅき
ある完全犯罪人の手記

冒頭文

○月 ○日 私はいつものように、まだ川の面や町全体に深い靄のかかっているうちに朝の散歩を急いだ。人に顔を見られることを、これほど嫌うようになったのも、精神的な病気が昂進しているためであろう。平静に思索することが可能なのは、このミルクの海を泳いでいるような、深い靄の中の散策をつづけている十数分数十分のうちに過ぎない。それとても、突然として白い幕の中から現われる思いがけない人の姿によって破られて

文字遣い

新字新仮名

初出

「黄色の部屋 第四巻三号」1952(昭和27)年12月10日

底本

  • 酒井嘉七探偵小説選 〔論創ミステリ叢書34〕
  • 論創社
  • 2008(平成20)年4月30日