ゆうどうえんぼく
遊動円木

冒頭文

私は奈良にT新夫婦を訪ねて、一週間ほど彼らと遊び暮した。五月初旬の奈良公園は、すてきなものであった。初めての私には、日本一とも世界一とも感歎したいくらいであった。彼らは公園の中の休み茶屋の離れの亭(ちん)を借りて、ままごとのような理想的な新婚の楽しみに耽(ふけ)っていた。私も別に同じような亭を借りて、朝と昼とは彼らのところで御馳走になり、晩には茶屋から運んでくるお膳でひとり淋しく酒を飲んだ。Tは酒

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本文学全集31 葛西善蔵・嘉村礒多集
  • 集英社
  • 1969(昭和44)年7月12日