せけんし
世間師

冒頭文

一 それは私がまだ二十(はたち)前の時であった。若気の無分別から気まぐれに家を飛びだして、旅から旅へと当(あて)もなく放浪したことがある。秋ももう深(ふ)けて、木葉もメッキリ黄ばんだ十月の末、二日路の山越えをして、そこの国外れの海に臨んだ古い港町に入った時には、私は少しばかりの旅費もすっかり払(はた)きつくしてしまった。町へ着くには着いても、今夜からもう宿を取るべき宿銭もない。いや、午飯

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本文学全集88 名作集(一)
  • 集英社
  • 1970(昭和45)年1月25日