いりえのほとり |
| 入江のほとり |
冒頭文
一 長兄の栄一が奈良から出した絵葉書は三人の弟と二人の妹の手から手へ渡った。が、勝代のほかには誰も興を寄せて見る者はなかった。 「どこへ行っても枯野で寂しい。二三日大阪で遊んで、十日ごろに帰省するつもりだ」と筆でぞんざいに書いてある文字を、鉄縁の近眼鏡を掛けた勝代は、目を凝(こ)らして、判じ読みしながら、「十日といえば明後日だ。良さんはもう一日二日延して、栄さんに会うてから学校へ行くとええのに
文字遣い
新字新仮名
初出
「太陽」1915(大正4)年4月
底本
- 日本文学全集11 正宗白鳥集
- 集英社
- 1969(昭和44)年7月12日