ようねんじだい |
| 幼年時代 |
冒頭文
大正八年八月 一 私はよく実家へ遊びに行った。実家はすぐ裏町の奥まった広い果樹園にとり囲まれた小ぢんまりした家であった。そこは玄関に槍が懸けてあって檜(ひのき)の重い四枚の戸があった。父はもう六十を越えていたが、母は眉の痕の青青した四十代の色の白い人であった。私は茶の間へ飛び込むと、 「なにか下さいな。」 すぐお菓子をねだった。その茶の間は、いつも時計の音ばかりが聞えるほど静かで、非常に
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 或る少女の死まで 他二篇
- 岩波文庫、岩波書店
- 1952(昭和27)年1月25日、2003(平成15)年11月14日改版