せいにめざめるころ
性に眼覚める頃

冒頭文

大正八年十月 私は七十に近い父と一しょに、寂しい寺領の奥の院で自由に暮した。そのとき、もう私は十七になっていた。 父は茶が好きであった。奥庭を覆うている欅(けやき)の新しい若葉の影が、湿った苔の上に揺れるのを眺めながら、私はよく父と小さい茶の炉を囲んだものであった。夏の暑い日中でも私は茶の炉に父と一緒に坐っていると、茶釜の澄んだ奥深い謹しみ深い鳴りようを、かえって涼

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 或る少女の死まで 他二篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1952(昭和27)年1月25日、2003(平成15)年11月14日改版