くろねこ
黒猫

冒頭文

私がこれから書こうとしているきわめて奇怪な、またきわめて素朴(そぼく)な物語については、自分はそれを信じてもらえるとも思わないし、そう願いもしない。自分の感覚でさえが自分の経験したことを信じないような場合に、他人に信じてもらおうなどと期待するのは、ほんとに正気の沙汰(さた)とは言えないと思う。だが、私は正気を失っている訳ではなく、——また決して夢みているのでもない。しかしあす私は死ぬべき身だ。で、

文字遣い

新字新仮名

初出

「フィラデルフィア合衆国土曜郵便」1843年8月19日号

底本

  • 黒猫・黄金虫
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1951(昭和26)年8月15日、1995(平成7)年10月15日89刷改版