めざましどけいのふんがい
目醒時計の憤慨

冒頭文

一 あしたはきつと五時に起きよう——と、また美智子さんは、堅く決心しました。あしたこそ大丈夫だ——と、更に美智子さんは、自分の胸に念をおしました。そして今年の春、叔父さんから貰つた大形の眼醒時計を書棚の上から取りおろして、ぴつたり朝の五時にベルをかけました。この時計は、ベヒーベンとか云ふ米国製の時計で、暗闇のなかでも指針(はり)と文字が青白い光を放つて、はつきりと読めます。 美

文字遣い

新字旧仮名

初出

「少女 第一二九号(ひぐらしの巻 九月号)」時事新報社、1923(大正12)年8月8日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日