しろうとくちぶえ
四郎と口笛

冒頭文

一 四郎は、つい此の間から、何時といふことなしに口笛が吹けるようになつた。どうしてそれが吹けるようになつたか? 自分にも気がつかなかつた。 「またお前は口笛を吹いてゐる。勉強しながら口笛なんて吹くものぢやありません。」と、四郎は母から叱られた。 なる程四郎は、机の前に坐つて、宿題の算術をやつてゐるところだつた。——四郎は、母の声を耳にすると同時に、ハツと気づいて、思はず手の平で口をお

文字遣い

新字旧仮名

初出

「少年 第二四一号(九月号)」時事新報社、1923(大正12)年8月8日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日