べんたつ
鞭撻

冒頭文

私は台所の隅へ駈けこむと、ながしもとで飯の仕度を手伝つてゐる母の袂にとり縋つて——仙二郎と一処に行くのは嫌だ、と云つた。が大声で喚くわけにもゆかず、たゞ無暗に鼻をならして駄々をこねた。 「どういふわけで、そんなに嫌なの……変だね。」母にさう追求されても私は決してその理由は審かにしなかつた。 どうあつても母は私に同意の色を示さないので私は不平の余り口惜し涙を滾すと、プツと頬ツぺたをふくら

文字遣い

新字旧仮名

初出

「象徴 第四巻第九月号」象徴社、1922(大正11)年9月1日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日