ほたる

冒頭文

一 「今夜こそ書きませう。……えゝと何から先に書かうかしら? ……候文も古くさいし、言文一致ではだら〳〵するし……」 光子さんは、紙をひろげてペンを執りましたが、何から先へ書いたらいゝか? と思ふと、迷はずには居られませんでした。一年程前に別れた春子さんに、今夜こそ手紙を書かなければならないと思つてゐるのです。それはもう、四日も五日も六日も前から始終光子さんの心を離れずにゐるのでした。考へ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「少女 第一一七号(菊月の巻 九月号)」時事新報社、1922(大正11)年8月8日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日