せいいちのしゃせいりょこう
清一の写生旅行

冒頭文

ある土曜日の放課後、清一はカバンを確かりとおさへて、家ンなかへ慌しく駆け込むやいなや、其の儘帽子も脱がず、 「お母さん!」と叫んだ。 「何だね、騒々しいぢやないか。お前またお友達と喧嘩でもしたんぢやないの?」と、縫物をしてゐた彼の母は、驚いたやうに軽く眼を挙げて彼を睨んだ。 学校から家までかなりの道程(みちのり)を、夢中になつて駆けて来た清一は、息が切れて、おまけに少し慌てると、吃る

文字遣い

新字旧仮名

初出

「少年 第二二七号(七月号)」時事新報社、1922(大正11)年6月8日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日