いけのまわり
池のまはり

冒頭文

「ね、お祖母さん——」 半分あまつたれるやうな口調で彼は、もぐ〳〵云はせながら祖母の炬燵の中へ割込むで行つた。 「厭だよ。お前なんかに入られると寒くつて仕様がありやしない。」 祖母はさう云ひながら、それでも彼の膝のまはりの被着の隙を行儀よく直した。 「ね、お祖母さん、阿父さんは怒つてる?」 「そりやア、怒つてるさ。」 「何と云つて怒つてる?」 「何と云つてるも何もない

文字遣い

新字旧仮名

初出

「白磁 創刊号」白磁社、1922(大正11)年4月1日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日