すなはま
砂浜

冒頭文

羽根蒲団の上に寝ころんでゐるやうだ——などと私は思つたくらゐでした。紫色をした大島が私の網膜に「黒船」か何かのやうに漂うて映りました。——午頃まで、このまゝ眠つてやらうかしら……などとも私は思つたりしました。 春先で、思ひきり好く晴れた朝の海辺なのです。——もう、かれこれ二時間も前から私は、渚の暖い砂の上で退屈な、然し極めて快い愚考に自ら酔つたまゝ、思ふさま胸を拡げて大の字なりにふんぞり

文字遣い

新字旧仮名

初出

「十三人 第三巻第十一号(十二月号、終刊号)」十三人社、1921(大正10)年12月1日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日