ちそう
痴想

冒頭文

私は岡村純七郎の長男で純太郎といふ名前である。私の家の伝来の風習で長男には必ず「純」の字を通り名として用ひてゐるさうだ。——私が生れた時、私の名前に就いて父は少しは頭を悩ましたらうか、種々な名前を考へたらうか……いや、そんな筈はあるまい。至極単純な頭悩の所有者である彼は、愚かな伝統を尊重——と云ふより寧ろ単なる不用意な考察で——それで私の名前なるものが制定される。 「返つて斯ういふ方がいゝよ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「早稲田文學 第一九〇号(九月号)」早稲田文學社、1921(大正10)年9月1日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日