さかみちのこどくざんまい
坂道の孤独参昧

冒頭文

何故俺は些う迄性のない愚図なんだらう、これツぱかりの事を何も思ひ惑ふにはあたらない、手取り早く仕度さへすれば二時間も掛らないで出来上る……が、純造は「明日こそは——」と叱るやうに決心した。前々の日に出掛ける筈で既に叔母から旅費はちやんと貰つて大切に机の抽出に蔵つてはあるのだが、つい出遅れて、これも度重なつて具合も悪く、この日は午後から到々頭痛がすると称して二階の室に寝て了つたのである。——眼を瞑る

文字遣い

新字旧仮名

初出

「人間 第三巻第八号(八月号)」人間社出版部、1921(大正10)年8月1日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日