かんのむし
疳の虫

冒頭文

必ず九時迄に来ると、云つて置きながら、十五分も過ぎてゐるのに、未だ叔父は来なかつた。僕は堪らなく焦れたく思ひながらも、叔父の来ることを待つてゐるには違ひなかつたから、頭の中で到頭叔父が大変に憎らしい者になつてしまつた。 好い天気の日曜の朝である。白い雲一つ見当らない。叔父と遊びに行く約束があつたから、僕は一時間程前に三人の友達が誘ひに来たけれど、断つて了つたのだ。こんなに待たされるくらゐ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「少年 第二一六号(夏期特別号 八月号)」時事新報社、1921(大正10)年7月8日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日