はくめい
白明

冒頭文

医院を開いてゐた隆造の叔父が発狂して、それも他所目にはさうとも見られる程でもなかつたが職業柄もあつたし、家内の者達への狂暴は募るばかりで「酒癖が悪い」位ゐでは包み終せなくなつて、漸くのこと、三月ばかり前にS癲狂院へ入院させて以来——毎晩のやうに同じやうな叔母の愚痴話の相手になつて、隆造は夜を更さなければならなかつた。 「だけどね、隆さん。」と、叔母は炭をつぎながら云つた。「情愛てものは争はれ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「解放 第三巻第三号(三月号)」解放社、1921(大正10)年3月1日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日