ふしぎなふね
不思議な船

冒頭文

あゝさうか、今日は土曜日だつたね。諸君おそろひでよく来たね、さあ遠慮なくずつと此方へ来給へ。何、お話? またかい。よくお話に倦きないね。よろしいやるよ。面白いお話を。 静かにしてようく聞いてゐるんだよ。今は昔、昔は今と、即ちワンス、アツポン、エ、タイム、そこに一艘の船があつた。何とまあ不思議なことには、その船には船員がひとりも乗つてゐないのである。夫(それ)だのにその船の煙突からは絶えず濛々

文字遣い

新字旧仮名

初出

「少年 第二〇七号(明治神宮号 十一月号)」時事新報社、1920(大正9)年10月8日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日