ひなぎくとひばりとしょうねんのはなし
雛菊と雲雀と少年の話

冒頭文

ある庭の片隅に一本の雛菊が咲いて居りました。花壇の中には立派やかな牡丹や美しい百合などが、誇り気に咲いて居りましたが、雛菊はさういふ花を見ても、少しも羨しいとは思はず、幸福な日を送つて居りました。 丁度、雛菊の頭の上では雲雀が楽しさうな歌をうたつて居りましたが、雛菊は凝とその歌を聞いて、「あゝ面白い歌だ。」とは思ひましたが、雲雀になり度いなどゝは少しも思はず、やはり自分は自分だけで幸福だ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「少年 第二〇六号(漫画号 十月号)」時事新報社、1920(大正9)年9月8日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日