冒頭文

若しも貴方が妾に裏切るやうな事があれば、妾は屹度貴方を殺さずには置きませんよ、と常に云つてゐた女が、いざとなつたら他愛もなく此方を棄てゝ行つた。此方こそかうして未練がましくも折に触れては女の事を思ひ出して居るが向うでは……妾は自分の将来を考へなければなりません。貴方のやうな全く取得のない不真面目なさうして涙を持たぬ人はつくづく愛想が尽きたのです。貴方のやうな人と将来を共にするなどゝいふことは、あゝ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「十三人 第二巻第九号(九月号)」十三人社、1920(大正9)年9月1日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日