そうりだいじんのおもいで
首相の思出

冒頭文

昔、独逸(ドイツ)のある貴族の家に大へんに可愛らしい、さうして美しい少年がありました。両親が非常に厳格だつたので、少年は無暗に外へ遊びに出ることが出来ませんでした。然し御殿のやうに立派な少年の室には、あらゆる書物や遊び道具がすつかり備へられてあつたから退屈をするやうな事は決してなかつたのです。遊び相手の召使も大勢居たけれど、何故か彼はそれ等の人達にとりまかれて、若様、若様とちやほや騒がれるよりも、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「少年 第二〇四号(歴史小説号 八月号)」時事新報社、1920(大正9)年7月8日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日