わかいさっかとはえ
若い作家と蠅

冒頭文

ある時は—— 苔のない心 うれしい心 くもつた心——悲しい心。          * 「つまらないの?」と、光子は自分が余り熱心に舞台に気を取られてゐるので、此方に気の毒な気がしたのだらう、軽い笑顔を作つて、突然此方を振り向いて云つた。自分は居睡りの真似をしてゐた。若し光子がその時——もう一秒間その儘の笑顔を保つてゐたら、自分は屹度「つまらなかないよ。」と悦び

文字遣い

新字旧仮名

初出

「十三人 第二巻第七号(七月号)」十三人社、1920(大正9)年7月1日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日