なきわらい
泣き笑ひ

冒頭文

ドンドンドン……といふ太鼓の音がどこからともなく晴れた冬の空に響いて居りました。私達は学校の退けるのを待兼ねて、駈けて帰りました。初午(うま)のお祭といふことが、此の上もなく私達を悦ばせてゐたのであります。自分達が主役となつて、大人の干渉を少しも受けずに何から何まで自分達の手でやることに、ある誇を感ずることが出来たのであります。ふだんは目上の人の指図の許にのみ暮してゐる自分達にとつては、かういふこ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「少年 第一九九号(明治元勲号 三月号)」時事新報社、1920(大正9)年2月8日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日