よろこびとかなしみのねつるい
喜びと悲しみの熱涙

冒頭文

道夫は友達の好き嫌ひといふことをしなかつたから、誰とでも快活に遊び交はることが出来た。従つて随分沢山な友達があつた。然し道夫がその大勢の友達の中で、真実自分の心の友である、と思つて居るのはたつた一人の沢田だつた。どういふものか道夫は沢田が好きだつた。沢田といふ友達を広い世間から見出した事は、それが偶然であればある程、道夫は自分を幸福だと思はずには居られなかつた。沢田を知らなかつた日を思ふと、現在に

文字遣い

新字旧仮名

初出

「少年 第一九八号(銀世界号 二月号)」時事新報社、1920(大正9)年1月8日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日