なげきのくじゃく
嘆きの孔雀

冒頭文

一 ある寒い冬の晩のこと 随分寒い晩でした。私は宵の中から机の前に坐つて、この間から書かうと思つてゐるものを、今晩こそは書き出さうと、一所懸命に想(おもひ)を凝らして居りました。——ところが余り寒いのでついペンをとる筈の指先は火鉢の上を覆ふやうになつてしまふのでありました。窓の外には目に見ゆる程な寒気の層が湖のやうに静かにたゞずむで居りました。火鉢の上に翳して暖たまつた私の眼で、硝子越し

文字遣い

新字旧仮名

初出

「少女 第八十六号(二月号)~第八十七号、第八十九号~第九十一号、第九十三号(九月号)」時事新報社、920(大正9)年1月6日~2月、4月~6月、8月6日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日