あるハイカーのき
或るハイカーの記

冒頭文

適量の日本酒を静かに吟味しながら愛用してゐれば、凡そ健康上の効用に此れ以上のものは無いといふことは古来から夙に云はれて居り、わたしなども身をもつてそれを明言出来る者であつたが、誰しも多くの飲酒者は稍ともすれば感情のほとばしるに任せては後悔の種を育てがちになるのも実にも通例の仕儀ながら、わたしも亦その伝で銀座通りなどをおし歩きながらウヰスキーをあをりつゞけたお蔭で、例に依つて例の如く、終ひに閑寂なる

文字遣い

新字旧仮名

初出

「旅 第十三巻第五号(五月号)」日本旅行倶楽部、1936(昭和11)年5月1日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日