じれつてい
自烈亭

冒頭文

僕は近頃また東京に舞ひ戻つて息子と二人で、霞荘といふところに寄宿しながら全く慎ましい日夕をおくり迎へて別段不足も覚えないのであるが、こんな小さな部屋では酒をのむわけにもゆかず、いつも神妙な顔をして、こつこつと小説を書き、書いても書いても何といふこともなく家を建てるなんていふことはおろか着物一枚買へもせず、それどころかいつの間にか鞄に入れて来たものもなくなつてしまつたりして、これは一体何ういふものか

文字遣い

新字旧仮名

初出

「モダン日本 第七巻第一号(新年特別号)」文藝春秋社、1936(昭和11)年1月1日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日