さんきょうのたこ
山峡の凧

冒頭文

一 百足(むかで)凧と称する奇怪なかたちの凧は、殆ど人に知られてゐないらしい。竜凧といふのは去年も日比谷で挙げられたが、それよりも稍かたちが小さく、凡そ構造は似てゐるが、それよりもはつきりと日本趣味のもので滑稽味に富んでゐた。風車仕掛の金色の眼玉と赤く長い舌と馬の尻尾の鬚を持ち、団扇型の胴片が左右に棕梠の毛を爪と擬した節足を四十余片つなぎ合せて、空に浮游するとまことに節足類のうごめくさま

文字遣い

新字旧仮名

初出

「都新聞 第一七二八六号~第一七二八八号」都新聞社、1935(昭和10)年12月26日~28日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日