きちがいししょう
気狂ひ師匠

冒頭文

わたしのうちには頭のやまひの血統があるといふことだが、なるほど云はれて見るとわたしの知る限りでも、父親の弟を知つてゐる。つまりわたしのほんとうの叔父であり、医学士であつた。誰よりも子供のわたしと仲が善くて、学生時代から彼は何彼につけてわたしを愛しみ、父のやうであつた。わたしの父はわたしが生れると間もなく外遊してわたしが十二三のころ一度帰朝し、また間もなくその後も二三年おきには外国の旅へばかり出てゐ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「早稲田文學 第二巻第十一号(十一月号)」早稲田文學社、1935(昭和10)年11月1日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日