ろうまんてきじひょう
浪曼的時評

冒頭文

先月は殆んど一ト月、新緑の中の海辺や山の温泉につかつて文字といふ文字は何ひとつ目にもせず蝶々などを追ひかけて暮し、その間に何か際立つた作品が現れてゐたかも知れないが、それまでは今年になつてからといふものわたしは、その読後感を誌す目的で毎月つゞけて月々の多くの雑誌を読んで来た。大体可もなく不可もなく、純文学派に多分の通俗的脈絡が鮮明になつてゐるようであり、単に文字の扱ひ振りや修飾の度合に依つて文学的

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝 第三巻第八号(八月号)」改造社、1935(昭和10)年8月1日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日