ぶんがくてきじじょでん
文学的自叙伝

冒頭文

父親からの迎へが来次第、アメリカへ渡るといふ覚悟を持たせられてゐて、私は小学校へ入る前後からカトリツク教会のケラアといふ先生に日常会話を習ひはじめてゐた。先生は日本語が殆んど不可能で、はじめは随分困つたが、オルガンなどを教はつてゐるうちに私の英語と先生の日本語は略同程度にすすんだ。私は祖父から教会にあるやうな立派な燭台やストツプのついたオルガンを買つて貰ひ、母親の琴と、六段や春雨を合奏した。電灯が

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第三十二巻第七号(七月号)」新潮社、1935(昭和10)年7月1日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日