さかぐちあんごくんの『くろたにむら』をよむ
坂口安吾君の『黒谷村』を読む

冒頭文

一 坂口安吾の作品集が出たことは近頃僕にとつての稀なる快心の一つだ。といふのは友情的な心懐を全く別にして予(かね)々僕はこれらの作品については、その厭世の偏奇境から沸然として発酵し奇天烈無比なる滑稽演説家「風博士」との会合以来、澄明の大気の彼方にありあり髣髴する蜃気楼の夢に眼を視張らせられて恍惚の吐息に愉悦を味はふこと幾度(いくたび)——その都度口を極めて筆を執つて嘆賞——おそらくは砂漠

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潟新聞(夕刊) 第一九四五一号、第一九四五二号」新潟新聞社、1935(昭和10)年6月28日、29日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日