みずうみのゆめ
湖の夢

冒頭文

一 友人である医学士のF君が、オースチンを購入したので、案内車を先に立てながら富士の五湖をまはつて来ようと、或る晩わたしの部屋を訪れた。神経科の専攻であるF君は、かねがねわたしの病状については深い留意を払ひ、年来にわたつて投薬をつゞけてゐて呉れる人であつた。ともかく文字のことは忘れるんだね、花をつくることをすゝめるよ——F君は切りとさう云つて、然し酒は寧ろ結構だと寛大であつた。だからわた

文字遣い

新字旧仮名

初出

「時事新報 第一八六六九号~第一八六七一号」時事新報社、1935(昭和10)年5月20日~22日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日