はんとうのはてにて
半島の果にて

冒頭文

神妙な療養生活がどうやら利きめがあらはれて、陽気もおひおひと和んで来ると、酒の有りがたさが沁々と感ぜられるのである。やはりわたしは、わらはうとおもへば、どうやらわらふことも出来さうな風来の大酒家(ウエツト)であり、若しも陶然としてさへゐれば、何処に住んでも胡蝶物語の夢想兵衛であるらしい。この間、わたしの近年の幻想的なる作品が、マンネリズムにおち入つて云々といふことを尾崎士郎君が好意と憐れみをもつて

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝通信 第三巻第四号(四月号)」文藝春秋社、1935(昭和10)年4月1日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日