はる

冒頭文

日暮里の浅草一帯から、大川のはるか彼方の白い空がいつもほのぼのと見渡せる、その崖のふちの新しい二階家の——どうしたことか、その日は、にわかな荒模様、雨や雪ではなくつて、つむぢ風の大騒ぎだつた。かれと僕は、その縁側の硝子戸の蔭に、籐椅子に向ひ合つたまゝ、ぼんやりとその景色を眺めてゐた。どこを、どう飲みあるいたものか、さんざんの態たらくで、何も知らず、例によつてひとりでかれの寓居を突然に朝つぱらからの

文字遣い

新字旧仮名

初出

「モダン日本 第六巻第四号(四月特別号)」文藝春秋社、1935(昭和10)年4月1日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日