こうゆうき
交遊記

冒頭文

そのころも手帳に日記をつけてゐた。学生時分からの友達は鈴木十郎と柏村次郎だつた。大正九年のころ、時事新報の雑誌部に勤めてゐた。鈴木の義兄にあたる巌谷氏の恩顧だつた。鈴木とは子供の時からの友達で、僕が二年先に早稲田の文科に入り、受験生だつた彼を同じところへすゝめたのである。今でも彼は何うかすると、あの時お前が文科などへすゝめなければ俺は重役くらゐになつてゐるんだぞなどゝ云ふことがある。彼は、しかし、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第三十二巻第一号(新年特大号)」新潮社、1935(昭和10)年1月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日