よんだほん
読んだ本

冒頭文

今僕の枕元には、ジイド全集の第四巻と久保田万太郎氏の「月あかり・町中」の二部があるのみ。ろく〳〵本も読めぬ病弱つゞきで、この幾ヶ月、たゞ窓外の風景を眺めるばかりをことゝして、あちこちの田舎ばかりを転々として漸くこゝに落ついたところだ。薬瓶とブロバリンと二三個のトランクと廻送される郵便と、だから本は何も持ち歩けなかつた。久保田氏のものは大概発表の当座読むのだが、この二篇とも本になるまで知らなかつた。

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝通信 第二巻第十一号(十一月号)」文藝春秋社、1934(昭和9)年11月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日