「おばな」をよみて (くぼたまんたろう・さく)
「尾花」を読みて (久保田万太郎・作)

冒頭文

途中で考へるから、ともかく銀座の方へ向つて走つて呉れたまへ——僕は、いつにもそんなことはないのだが、たつたひとりで寂しさうに外へ出ると、車に乗つて、そんな風に呟いた。外套の襟に顔を埋めて、うまいものだなあ——と吐息を衝くのであつた。あの人の作品が、年を重ねる度に、一作は一作毎に深い艶を含んで、歴起として来るおもむきなんていふものは、容易に他人(ひと)の眼にはつき憎い繊細なものとされ、何うかすると、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「三田文學 第九巻第一号(一月号)」三田文學会、1934(昭和9)年1月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日