ぼくのさけ
僕の酒

冒頭文

悪い酒であります。憎い酒であり、野蛮な酒でありますが、決して酒に罪があるのではありません。偏へに小生の酩酊振りが悪く、憎く、そして極めて野卑であるばかりなのだ。あゝ小生は常に悪酔の失策と後悔に身をやかれ、生活の軒を傾け、やがては自堕落の淵にめり込むやも知れません。その癖一度だつてうまいぞ、こいつは飲まずには居られんと止み難い欲望に駆られて酒徳利に振ひつくといふわけではありません。久保田万太郎先生の

文字遣い

新字旧仮名

初出

「モダン日本 第五巻第一号(新年特大号)」文藝春秋社、1934(昭和9)年1月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日