そのむらをおもいて
その村を憶ひて

冒頭文

怒田村のこと 鬼涙(きなだ)、寄生木(やどりぎ)、夜見(よみ)、五郎丸、鬼柳(きりう)、深堀(しんぼり)、怒田(ぬた)、竜巻、惣領(そうれう)、赤松、金棒、鍋川——足柄の奥地に、昔ながらのさゝやかな巣を営んでゐるそれらの村々を私は渡り歩いて、昆虫採集に没頭してゐた。私の、いろいろな短篇小説の中に屡々現れるいくつかの村の名前は、あれは悉く現実の名前なのか? といふ意味の質問を、先夜シエーキスピ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「都新聞 第一六五四四号~第一六五四六号」都新聞社、1933(昭和8)年12月8日~10日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日